津田大介氏のメルマガ「メディアの現場」(vol.373)に、対談記事掲載
映画『宮本から君へ』の助成金不交付は妥当か──相次ぐ騒動に見る日本の芸術文化政策の問題点
2019.11.22掲載記事より一部抜粋(こちらは有料記事です)
10月下旬、愛知県の大村知事が記者会見を開き、文化庁があいちトリエンナーレへの補助金を交付しないことを決めたのは違法で不当だとして、文化庁に対し不服の申し出をおこなうことを発表しました。それと時を同じくして、日本芸術文化振興会が今年7月、映画『宮本から君へ』に内定していた助成金を不交付としていたことが発覚。理由は出演者の不祥事とのことですが、日本芸術文化振興会の対応に問題はなかったのでしょうか。憲法研究者で武蔵野美術大学教授の志田陽子さんにお話をうかがいました。
(2019年10月28日 J-WAVE『JAM THE WORLD』「UP CLOSE」より)
出演:志田陽子(武蔵野大学教授・憲法学者)、津田大介 構成:阿部雄一
◇萎縮を招く日本芸術文化振興会の対応
津田:あらためて、今回のニュースについてお話をうかがいます。今年3月、日本芸術文化振興会が本年度の助成事業の対象を決定しました。そのなかには映画『宮本から君へ』も含まれており、助成金1000万円の支援が決まっていたということです。
しかしその後、出演者のピエール瀧さんが執行猶予付きの有罪判決を受けたことで、日本芸術文化振興会は7月に交付内定を取り消しました。それが先日報道されたわけですが、志田さんはこのニュースを聞いたときどんなふうに思われました?
志田:あいちトリエンナーレの件も含め、良くない流れになっているな、と。芸術や学術をはじめ、市民社会の言論環境にも萎縮のドミノが起きていると感じました。法律論は横に置いてまず私の印象を言うと、日本は歴史や社会の暗部に向き合えない国になりつつある。慰安婦問題などがその最たる例ですが、これは突然起きたことではなく、最初はジャーナリズムの分野で顕在化し、次に学術研究の分野にも顕れるようになりました。
その波が、ついに芸術表現にまでやって来てしまった。おそらく日本社会の根幹部分が精神的にすごく弱くなっているということなのでしょう。以前から見えにくいかたちで起きていたことではありますが、ここまでわかりやすいかたちで顕在化してしまったことに対して危機感を抱きました。なんとかして止めなければいけない、と。
津田:たとえば映画でいうと、昨年公開された是枝裕和監督の『万引き家族』がカンヌ映画祭でパルムドールを受賞しました [*9] 。その際、林文部科学相が是枝監督を文科省に招いて祝意を伝える考えを示しましたが、監督は「公権力とは潔く距離を保つ」として辞退を表明 [*10] 。『万引き家族』が国の助成金でつくられた映画だったことで是枝監督がバッシングされたのは記憶に新しいところです。
しかも、犯罪や貧困によって「社会から見捨てられた人びと」を描いた同作を国への批判だと捉え、「助成金をもらって政府批判の映画をつくるとは何事だ」と非難する人もいました。助成金うんぬんの問題は、このときからくすぶっていたように思います。
志田:そうですね。 (中略)・・・「公益性の観点から」とのことですが、その「公益性」の「公」という言葉の意味が、本来とは違うものになってきているのではないかと感じています。
津田:本来の意味、とは? ・・・(この記事は、2019年10月28日 J-WAVE『JAM THE WORLD』「UP CLOSE」での対談の記録です。)