α-シノドス vol.300 に論説掲載 「AV人権倫理機構の試み」

2022 0615 α-シノドス

Chapter-03

「AV新法」と「AV人権倫理機構」の試み――強要被害の防止と《自己決定》確保の道
志田陽子(AV人権倫理機構・代表理事)

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(本文冒頭部分と終わりの部分、抜粋)

◇急ピッチで進んだ「AV新法」論議

いわゆる「AV」(アダルトビデオ)への出演強要被害を防止するための議論から始まった「AV新法」法案(※)の審議が、異例の早さで進んでいる。5月27日には衆議院で可決され、6月中に成立する見通しと報じられている。本稿執筆時にはまだ審議中だが、掲載時にはすでに可決・成立している可能性もある。

※「性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約書等に関する特則等に関する法律案」(AV出演被害防止・救済法案)

この問題は、もともとは、2016年に社会問題として浮上した「AV出演強要問題」に端を発している。ここでは、腕力は使わないが言葉巧みにそそのかして意に反する出演をさせることも、「出演強要」に含める考えが採られており、本稿でもその理解を共有している。

(中略)

立法過程のあり方として、それで法案を成立させてしまってよいのかどうか、疑問は残る。そして、機構が「業界団体」との誤解(レッテル貼り)を受けたことから、「業界へのヒアリングは十分に済んでいる」との誤解が生まれ、そのような放置状態が起きてしまったのだとすると、この誤解の根を、もっと早い時期にもっと明確に否定しておくべきだったとの悔恨が残る。(口頭で訂正は求めたが)

このように、機構(筆者)にも、憲法が保障する権利や政治過程の筋道に照らして、反省すべき見落としがあった。それでも多数の現役出演者と事業者が、機構が提供する面倒なルールを遵守してくれているのは、「『法令その他のルールを守り被害を出さない』と公言できる出演者・事業者であることが、その仕事をするために必要だ」という理屈にだけは合意してくれているからだろう。

成立する見込みの法律は、まだ運用についてさまざまなすり合わせを必要とするはずだ。その運用が、この合意を無にする内容に傾かないことを祈るばかりである。

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