Yahoo!個人オーサーのページに論説を公開 性暴力を防ぐ責任と、職場職員の「表現の自由」―2022年5月30日の長崎地裁判決から考える

長崎地裁判決から考える-08162022

(本文から一部抜粋)

「二次加害」を防止する責任

この事件では、部長(当時)とは別の市幹部が、これは原告から誘った合意の上での私的関係だったとする虚偽情報を広めていた。判決は、この種の二次被害を防ぐべき注意義務が市にあるので、市がこれを防止しなかったことを違法だったと認めた。

被害者は、「自分のほうに落ち度があったのではないか」「被害を申し立てたとしても自分の落ち度と決めつけられるのが関の山ではないか」という怯えた心理状態を抱えていることが多い。たとえば、「そんな(人物の)ところに一人で行けばどうなるか、少し考えればわかったでしょうに」と混ぜ返す談笑が、噂話として交わされる場面は、日常の中にかなりあるようで、筆者もそうした談笑場面に出会うことが時々ある。その多くは法的責任を問いようのないもので、「それがハラスメント体質の克服を座礁させてしまうことについて、どうかご理解を」と啓発に努めるしかない事柄がほとんどではある。

しかし、たとえば過酷な侮辱的扱いを受けて人と会うこともできない心理状態になっていた人が、ようやく立ち直って職に復帰し会合に出席したとき、その出鼻でこの種の談笑に取り囲まれることになれば、当人は決定的な萎縮と自己軽蔑を背負わされ、正当な権利主張も困難になることは想像にかたくない。このような具体的場面については、法的な意味での「二次加害」と考えるべきだろう。

長崎市の事例では、そうした揶揄的な空気の全体を違法と見たわけではなく、その空気を醸成するような偽情報を流布したことを違法とし、こうした二次加害を防止する責任がこうした職場組織にはある、との管理責任に照らして、この二次加害の実質放置を「違法」とした。…

「性暴力を防ぐ責任と、職場職員の「表現の自由」―2022年5月30日の長崎地裁判決から考える」

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